石塚源太さんの漆作品「Inner Cycle」は、Four Seasons Hotel Osakaに設置されています。
梅田や北新地を南下した場所に位置するフォーシーズンズホテル大阪からは、高層ビルと堂島川が一望できます。デザインスタジオCuriosityのフランス人デザイナー、グエナエル・ニコラ氏が空間デザインとキュレーションを担当。
「Inner Cycle」は人々の生活や文化がまじりあう場所の象徴となる作品。まさに今、大阪という街に息づく躍動感そのものが表現されています。
Photo@Genta Ishizuka
直線的なデザインの空間と調和する、美しい漆仕上げの表面。
作品から感じられる質感や触感は、塗膜の奥にあるうごめきの手触りまでもが伝わってくるかのようです。うねりを描いた艶のある表面からは、まるで生き物の皮膚に触れているような想像力を掻き立てられます。
内部の原型を骨格として本漆で仕上げられた本作品。
「漆で黄色いものを作ってほしい」という珍しいオーダーから、ドローイングやサンプル試作を幾度も重ねて制作が進められたそうです。
伝統的な漆の手法では、原型の上に漆と麻布を何層も貼り重ねることで下地を作っていきます。今回はかなり大きめのサイズの作品だったこともあり、石塚さんは新たな下地材料としてジェスモナイトAC100を導入しました。ジェスモナイトオフィスを訪ねてくださり、マケットに実際にジェスモナイトを塗布して作業手順や、硬化後の強度、いくつかの繊維との相性などを確認後に実制作に着手されています。
ジェスモナイトAC100と麻繊維を下地材として使用することで、大型造形でも軽量かつ高強度を出すことができ、また下地の乾燥による収縮やヒビなどのリスクも低減します。
漆独特の滑らかな光沢を出すには確かな技術と長い時間とが必要ですが、この作品は仕上げに一切の妥協なく圧倒的な精度で仕上げられています。
漆黒から黄色へ変化する美しいグラデーションは、まるで内部から光を放っているようなエネルギーを感じました。
伝統的な漆芸技法を現代的なアプローチで表現し、工芸と美術の境界を超える仕事をされている石塚さん。漆を何層にも塗り重ね、物質の厚みと時間が可視化されているような彫刻作品で、下地材としてジェスモナイトがお役に立てたことをうれしく思っています。
時間と共に姿を変える街、そこに住み動き続ける生き物たち。
外からやってきては去っていく、異なった文化や人々。
奥から盛り上がってみえる生命の波。
それらが集約されたエネルギーを持つこの存在は、大都会を行き来する人間の1人のようにも感じられました。