長きにわたり木象嵌師・野鳥彫刻家として活動されている、内山春雄さん。
東京都美術館で開催の「いのちをうつす」では、ジェスモナイトで制作されたバードカービングが展示されています。
目の見えない人にも野鳥の世界を届けたいという思いから始まった「タッチカービング」という形の本展示では、合計で39点に触れることができます。鳥たちに直接触れてその精巧さを感じ、設置された機械で鳴き声を聴くことのできる空間。博物館のような楽しさもありながら、内山さんの技術に圧倒されます。
原型となる木彫の鳥たちは、時間をかけて精巧に作られます。
それらをシリコンで型どりし、ジェスモナイトで型抜きしたタッチカービングの野鳥たち。内山さんの手による木彫の原型が、細かい羽の流れや足の細部に至るまで、いかに緻密に彫られているかがわかります。
タッチカービングだからと大げさに表現するのではなく、自然界の鳥たちが時間をかけて丁寧に再現されています。
単一の色で表現されているにもかかわらず羽は柔らかく、足や嘴には鋭さを感じます。
足先などの細い部分には補強で真鍮やピアノ線が、羽を大きく開いた部分にはガラスチョップの補強が入っています。
大小さまざまな鳥たちが、大きさによって綿密に調整された強度で並んでいます。
それぞれの鳥の足元には、専用の器具でタッチすると鳴き声が流れてくる仕掛けがあります。
街中ですれ違う鳥ですらじっくりと鳴き声を聞けないことも多い中、ヤンバルクイナ、ライチョウ、チュウシャクシギ、カワセミなど、さまざまな鳥たちの声を聴くことができます。
また、すでに絶滅しているワンダーチキンの展示も。鳴き声を聞くことは叶いませんが、代わりにワンダーチキンについてのコメントが流れてくるのを聞き、改めて本展示への愛情深さを感じました。
バードカービングは元々アメリカで始まり、デコイ(狩猟のおとり)としてその文化が発展してきました。
一方で内山さんは野鳥の保護活動、博物館での展示、目の見えない人に体験してもらう世界としてのタッチカービングなど、「学問」「福祉」「芸術」という多面的な制作を続けられています。
繊細な羽先、水かき、くちばしの凹凸、後頭部。普段じっくり見ることのない鳥の細部にワクワクします。
ズラリと並んだ可愛い鳥たちを撫でていると暖かな気持ちになる一方で、野性的な顔のメンバーも居ることから、鳥類が古代から存在していることへの説得力を感じる展示でもあります。
⇩Jesmonite LABでは、制作工程記事を掲載しています。ぜひご覧ください。
内山春雄さんの鳥の彫刻「タッチカービング」制作工程